2016/08/15

農業再生の希望に 飯舘の避難区域 解除前、古里で汗

2016年8月15日 福島民報
https://www.minpo.jp/news/detail/2016081533740

来年3月末に東京電力福島第一原発事故に伴う居住制限、避難指示解除準備両区域が解除される飯舘村でこの夏、農業再生に向けた動きが本格化する。村復興整備計画の営農再開モデル地区となっている居住制限区域の関根松塚地区では村内の花卉(かき)栽培と畜産を長年けん引してきた農家が一足早く古里での営農を再開する。「成果を出して他の農家の希望になる」と地域を背負う覚悟がにじむ。

花卉農家の高橋日出夫さん(66)の農地では今月上旬にパイプハウスの建設が始まった。年内に畑地約60アールにパイプハウス7棟を立て、トルコギキョウ、アルストロメリアなどを育てる。来年1月に種をポットにまき、3月に定植。7月以降に順次出荷する計画だ。

25年ほど前に妻の民さん(67)と花卉栽培を始め、十数棟のハウスと路地で20種類ほどを育てていた。原発事故が順調だった営農活動を台無しにした。村のスクールバスの運転手を1年ほど務めたが、花栽培への思いは断ち切れなかった。村のリース事業を活用して福島市飯野町にハウス4棟を借り、平成24年に栽培を再開した。

ハウスを建てる自宅近くの農地を定期的にトラクターで掘り起こしてきた。ハウス完成に合わせて自宅での長期宿泊を始めるつもりだ。原発事故前に村内のトルコギキョウ農家は約50人いた。「自分が勢いをつけ、栽培したい人を集めたい」。真っさらな土地に希望の花を咲かせる。


パイプハウスが立つ農地をトラクターで掘り起こす高橋さん


■畜産・山田猛史さん 水田放牧で実証事業

畜産家の山田猛史さん(67)は県の水田放牧実証事業を担いながら原発事故前、優良産地として名高かった畜産の村再興を目指す。村内の除染を終えた水田約2ヘクタールに牛を放牧し、牧草を食べても内部被ばくなどの健康被害が出ないかを確かめる。9月上旬に牧草の種をまく。

中学生から実家の畜産を手伝い、親牛29頭、子牛17頭を育てていた。原発事故後は中島村の牛舎を借りた。平成26年10月、福島市飯野町の空き鶏舎を牛舎に改修し、近くに家を建てた。現在は4月に避難先の京都市から戻ってきた三男の豊さん(33)と親牛38頭、子牛22頭に愛情を注いでいる。

実証事業は3年間。最初は6頭を放牧するが、問題がなければいずれ50~80頭に増やすつもりだ。稲作を断念した農家から土地を借り、関根松塚地区全体で26ヘクタールの農地で放牧する計画も描いている。「受け継がれた農地を守るための挑戦。住民の生活再建につなげたい」と意欲をにじませた。

■村、ビジョン策定し支援

村は除染後の農地保全から農業再開までの流れや行政の支援内容などを盛り込んだ営農再開ビジョンを28年度中に策定し、営農再開を希望する住民の意欲を後押しする。

実証事業では来春の出荷・摂取制限解除に向けたホウレンソウ、小松菜、キャベツ、ブロッコリー、コカブの栽培が今月に始まった。広範囲の27カ所で地元生産者がほ場を管理する。水稲の作付けは25年度から3カ所で始まり、今年度は3カ所増の6カ所となった。

農地活用や水路、ため池の放射性物質対策にも力を入れる。
地域のためにも放牧実証を成功させたいと語る山田さん

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