2016/06/16

いわて人模様 人形作りで震災や原発事故を伝える/岩手

2016年6月16日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160616/ddl/k03/010/053000c 

阿部貞子(あべ・ていこ)さん(68)

盛岡市渋民の自宅は、工房も兼ねる。石粉と木粉の肌色の粘土を手でこねて、竹製のへらで体の形を整えて顔に表情を作っていく。20センチほどの人形ができると、表情を豊かにするため絵の具で色を塗ったり、布で作った服を着せたりする。

友人にかわいらしい人形をもらったのがきっかけで、30歳のころから趣味で作るようになった。同じような顔の作りにするにはどうしたらいいのか、楽しみながら制作を続け、1985年には初めて個展を開催。表情に自然破壊への怒りを表した作品など、当初のテーマは「自然と環境保護」だった。それが、東日本大震災で一変した。

2011年4月、宮古市で復興ボランティアに参加し、津波にのまれた被災地の惨状を目の当たりにした。家を流された被災者、がれきの山。その中で、お互いに支え合う被災者を見て、体の奥から突き動かされるものがあった。「自分も何かしないといけない。自分にできることは、人形作りしかない」

帰宅したその日の夜から作品作りにのめり込んだ。それまでは1体作るのに、構想から完成まで1カ月ほどかけていた。それが、この5年余りで80体ほどを作り、一体一体に復興の祈りを込めた。「復興に向かう人々を表現した。人形を見て、被災地について少しでも関心を持ってもらえたら」。表情に優しさと同時に、力強さを持たせた。

東京電力福島第1原発事故で、原発への不信感も芽生えた。12年3月、福島県郡山市に足を運んだ。日差しがまぶしい昼下がりに、放射線を気にして子どもが外で遊んでいない街に胸を痛めた。

「今回の事故で、人間は本当に横暴だと思い知った。自分たちがコントロールできないものは造ってはいけない」。作品を通じて、福島が抱える問題を社会で共有したいと考えている。今後も積極的に個展を開き、「あの日」のことを伝えていくつもりだ。【小鍜冶孝志】
 


阿部貞子さん
■人物略歴
一戸町生まれ。55歳で米国の大学に2年間留学し、美術を学ぶ。工房では月2回、人形作り教室を開く。

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