2016/02/22

【丸川環境相発言】被災地無視の国会論議


2016年2月22日 福島民報
https://www.minpo.jp/news/detail/2016022229009

東京電力福島第一原発事故後に国が定めた除染の長期目標に関する発言をめぐり丸川珠代環境相が国会で野党の追及を受け、発言を撤回した。極めて複雑になった問題を軽々しく口にする大臣も大臣だし、「言った、言わない」のレベルで終始しているような国会審議を見ていると、ため息しか出ない。

丸川環境相の発言の狙いは分からない。除染の在り方については、さまざまな意見や考え方があり、依然として混乱も見受けられる。見直しの議論をするつもりなら徹底的にやればいい。もちろん、放射線防護の考え方、これまでの経緯、専門家や行政関係者の意見、県民の思いなどを踏まえた上での話だ。そうした知識も覚悟もなく、当時の民主党政権を批判するために口を滑らせたとすれば、さらなる混乱も起きかねず、大臣としての資質が問われる。

野党の民主党も偉そうなことは言えまい。放射線防護をめぐる混乱を招いたのは当時の政府だ。学校の屋外活動制限基準を年間20ミリシーベルトとしながら、程なく内閣官房参与が反発して辞任した。これが小さな子どもを持つ母親たちを不安に陥れた。その後、年間1ミリシーベルト以下を目標に掲げたことで混迷は深まり、除染にも影響を及ぼした。より良い対応の在り方を探るため自らの失敗を含め議論をするなら意味もある。揚げ足取りに終わっては時間の無駄だ。

東日本大震災と原発事故から間もなく丸5年を迎える。時が流れ、人が変わることで政府や国の役所からは発生直後の緊張感が失われているように映る。県内には避難者の生活再建などこれまでの懸案に加え、時間の経過とともに新たな課題も表面化してきている。中間貯蔵施設の用地確保、森林の除染、河川やため池に堆積している土砂の除去、沿岸の震災がれきの撤去…。いずれも縦割りの国の組織や法律の壁などに阻まれて身動きが取れなくなっている。

こうした事態を突破するのが政治の力だろう。与野党を問わず、被災地の課題を国会の場で積極的に取り上げ、政府に対応を迫る。政府にできないことは議員立法を行ってでも実現していく。それが国会議員たる者の役割と責務であり、結果として被災地の思いとズレが生じ始めている政府や省庁の姿勢を正す力になるのではないか。

選挙が近づくと政治の世界では「被災地の復興加速」などの言葉が飛び交い始める。支持を得たいなら実のある国会審議をすべきだ。被災地や被災者は権力争いの道具ではない。(早川 正也)

0 件のコメント:

コメントを投稿