2015/10/30

東日本大震災から4年半(中) 【記者メモ】被災者の声を地方創生に

2015年10月08日  山陽新聞
http://www.sanyonews.jp/article/239961/1/?rct=okayama_business

東日本大震災で被災者が一時避難、移住している岡山県内の主だった地域を訪ね、多くの被災者に会った。取材の動機は「なぜ岡山が西日本で飛び抜けて一時避難、移住者が多いのか」という素朴な疑問だった。地震など天災が少なく気象条件がいいし、「全国各地の原発にコンパスの芯を合わせて一定の半径で円を描いてみて、円内からすべて外れたのが岡山県南部」と話す被災者もいた。岡山の恵まれた立地条件が、放射能汚染に敏感になった関東圏などに住む多くの自主避難者を呼び込んだことは間違いない。

とはいえ、多くの被災者が岡山県を移住先に決めた要因は立地条件だけではない。大震災直後に避難してきた被災者が、仲間の被災者のための支援ネットワークを立ち上げたことも見逃せない。


インターネットや地域新聞を利用し、今住んでいる岡山の地域情報を東北や関東の被災エリアに向けて絶えず発信してきた。この「支援の連鎖」がうまく機能したことは大きい。被災者が一番に知りたいことは、移住先の絶対条件となる住宅の確保と子どもの教育環境、放射能汚染などがない「食の安全」に関する現地情報だ。

実は被災者支援については県、市町村がネットで支援メニューの情報を流している。しかし、内容がわかりにくく、情報が一元化されていないことなどから、不親切だとの指摘が多かった。

支援に積極的な自治体は危機管理室(課)などで窓口を一本化しているケースもあるが、そこでさえ実際に問い合わせてみると「住宅の問題は住宅課や都市計画課へ。公立幼稚園の授業料免除、小中学校の就学援助は教育委員会へ。保育料は...」と電話のたらいまわしが少なくなかったという。ワラにもすがる思いの被災者にとって、対応が適切でないと言われても仕方ない。

こうした中で被災者が一番頼りにしたのが先に移住してきた被災者による支援ネットワークの存在だ。倉敷市や総社市では被災者たちがいち早く支援ネットワークをつくり、現地の情報をはじめ、移住のための「お試し住宅」などの一時避難用の住宅を確保し、ネットを通じて全国に情報を届けた。いま定住する県内の被災者は、この情報を頼ってきた人が多い。行政にはもっとスムーズな情報提供システムの整備が必要だ。

移住先の選定でもうひとつ重要なファクターになっているのが、被災者グループと地域住民との交流がうまくいっているかどうか。被災者が最終的に移住先の条件にしたのは、自治体の支援制度だけでなく、受け入れてもらう地域コミュニティーの問題だったことがそれを裏付けている。被災者でつくる支援グループは、多くの壁を乗り越えながら地域に溶け込んでいった。岡山市北区建部町のケースでも取り上げたが、移住者が地域に同化するのはそう簡単ではない。地域住民との共通テーマは「食の安全」や「子育て」だったり、環境問題だったりした。さまざまな取り組みで、新住民との交流で地域の意識が変わっていった面も見られた。岡山県が全国の避難、移住先の「モデル県」になったのは、実は先に移住してきた“先輩被災者”の地道な努力があったからだろう。

被災者にとって残念だったのは、岡山県が被災自治体との間で「災害救助法」(※)の適用を
結んでいないという事実だ。同法は避難先の自治体エリアで被災者の住宅費を「みなし仮設住宅」として扱い、被災者に民間住宅を無料で提供することができる。福島県の場合、避難指示が出されていない比較的に放射能汚染が低い地域からの自主避難者にも、同制度が適用される。住宅費を国と被災自治体が負担することで被災者の経済的負担を軽減するのが目的だ。同法の適用を受けてない自治体は、岡山県など全国でもわずか。


岡山県は当初から独自の支援体制で対応するとして、空きがあれば県営住宅を4年間の期限付きの無料で提供、市町村でも公営住宅をある程度優先的に有料、無料で提供してきた。しかし、公営住宅は老朽化していたり、空きが少ない場合が多く、家族で移住してくる被災者からは敬遠されがち。結果として、県内にいるほとんどの被災者は親族、知人宅を除けば、大半が民間住宅に有料で入居し、経済的負担を強いられているのが現実だ。

さらに問題は、県営住宅の無償提供は県独自の判断で今年3月に新規分が打ち切られていること。それに比べ福島県の災害救助法は先ほど2017年3月までの延長が決まり、適用している避難先の自治体はその恩恵を受けることになった。なぜ岡山県は災害救助法の適用を受けなかったのか。疑問が残る問題だが、この点について県危機管理課は「いきさつがはっきりしない」と言うだけで要領を得ない。鳥取県は定住化促進の一環として支援の延長策を検討している。岡山県にも何らかの形で被災者の救済策を望みたい。

全国で地方創生計画が策定され、自治体は新規定住者を呼び込み、人口減少の歯止めにしようと躍起となっている。岡山県も例外ではない。外から人を呼び込める「安心で住みやすい地域」にするにはどうすればいいのか。被災者問題を定住化促進にどう位置づけるのか。自治体の定住化促進が掛け声倒れにならないよう、足元をしっかり見つめた施策が求められる。


(※)災害救助法
自然災害などで大きな被害が発生した地域で、被災者の収容施設や仮設住宅の確保などの応急的な救助を行い、被災(罹災)者の保護と社会秩序の保全を図るのが目的。被災都道府県がそれに関わる費用を負担、場合によっては国が一部を負担する。東日本大震災では岩手、宮城、福島、千葉県、東京都など10都県の全域、あるいは一部で適用され、被災者が避難した他の都道府県でも弾力的に運用。被災者が他地域に避難、移住する際、現地で被災者が住む民間住宅を「みなし仮設住宅」とし、原則被災エリアの自治体や国が家賃を肩代わりする。

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