2015/09/05

<風評と闘う福島>品質と安全 強く訴え

2015年9月5日 河北新報
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201509/20150905_63016.html

早場米の刈り取りを見守る御稲プライマルの後藤専務(左)=8月25日、本宮市















◎原発事故の現場(中)原点回帰

<農家の姿発信>
農業生産法人「二本松農園」(二本松市)の斉藤登代表(56)はひと眠りした後の深夜、パソコンの前に座る。インターネットで注文をチェックし、ブログを更新する。

2010年に脱サラした直後に東京電力福島第1原発事故が起きた。ぱたりと売れなくなったコメをホームページに載せてみると、「福島を応援したい」と注文が殺到した。

風評被害に苦しむ知り合いの農家らに頼まれ、野菜や加工品も販売するようになった。旬の野菜や果物を月1回宅配する「ふくしま新ブランド」には、約50戸の生産者が参加。ネットでの売り上げは年間4000万円を超える。

顔の見える関係に風評被害はない-。4年半の経験で斉藤さんはそう信じる。スーパーの店頭では難しいが、ネットなら作物の特長や生産者の思いを紹介できる。

「福島を応援してくれる人が1割いれば、それは大きなマーケットになる。農家は地道にいいものを作り続け、生き残るしかない」

<今も3度検査>
水田を中心に約30ヘクタールを受託生産し、販売する本宮市の「御稲プライマル」は、原発事故前より売り上げを伸ばしている。

事故の影響で個人の販売先は3分の2に減り、県外の飲食店などとの取引も途絶えた。顧客をつなぎ留めようと、県に先駆けてコメの放射性物質濃度の検査を始めた。今も玄米の段階から3度、検査する。

安全性の証明だけでなく、食味や食感を科学的に分析する装置も導入。商談会などに積極的に出向き、顧客を増やした。「事故前ならコメを作るだけでよかったかもしれない。今は売るためにできることは全部やっている」と後藤正人専務(35)は言う。

コメ粉など加工品の販売に加え、3年前には自宅で農家民宿を始めた。首都圏の学生ら年間約100人が滞在し、田植えなどを体験する。「生産現場を知ってもらえば、説得力がさらに増す」

<単価は下げず>
会津若松市の食品会社「本田屋本店」は、打ち切られた取引が復活した。「実力があれば必ず客は戻る」。本田勝之助社長(41)はそんな思いを強くしている。

地元農家と契約し、10年前にブランド米の生産を始めた。水田ごとに土壌を調べ、肥料を設計する。冷めても味が落ちず「すしに最適」と評判になった。東京・銀座に本店を置く高級店にも納入していた。

12年夏、「申し訳ないが…」とすし店から契約の打ち切りを告げられた。香港や台湾など海外向けも出荷規制も続き、市場から締め出された。

「値段を下げれば、品質が悪いと認めることになる」と単価は下げなかった。

「またお宅のコメを使いたい」。すし店から再び引き合いがあったのは昨年夏。「風評リスクを負ってでもまた使ってくれるのは、コメの味が評価されたからだ」と本田社長は語る。

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