2015/09/05

楢葉町:全域避難を解除…すぐに帰還1割未満、再生険しく

2015年9月5日 毎日新聞
http://mainichi.jp/select/news/20150905k0000m040138000c.html



楢葉町の位置

政府の原子力災害対策本部(本部長・安倍晋三首相)は5日午前0時、東京電力福島第1原発事故で全域避難となった福島県楢葉町の避難指示を解除した。解除は田村市都路地区と川内村東部に続き3例目で、全域避難した県内7町村では初めて。国は今後、楢葉町を拠点に沿岸部に広がる避難指示区域の除染やインフラ整備を進める。一方、放射線への不安や病院などの生活基盤の不備などから、すぐに帰還する住民は約7300人のうち1割に満たないとみられ、町再生への道のりは険しい。
 

◇財源確保が課題
国は2017年3月までに放射線量の特に高い「帰還困難区域」を除き、県内の避難指示を解除する方針だ。3段階ある避難指示区域の中で最も放射線量が低い「避難指示解除準備区域」(年間積算放射線量20ミリシーベルト以下)の楢葉町を「復興の拠点」と位置づけ12年9月から除染に着手。道路などの整備も14年度中にほぼ完了した。

国によると、楢葉町では宅地の空間線量が1時間当たり平均0.3マイクロシーベルト(昨年7〜11月)に低下。国は「年間被ばく量が帰還の目安の20ミリシーベルトを下回ることが確実になった」として、町や住民らとの協議を経て、解除を決定した。医療や買い物への不安を緩和するため、病院への無料送迎バスの運行や町内のスーパーによる宅配サービスも始まる。

町内には福島第1原発の収束作業や除染を請け負う大手ゼネコンの作業員の宿舎が急増。しかし、住民の転出が相次ぎ、町の人口は事故前の8100人前後から約1割減少した。

町の税収も減り、震災前に6割を超えていた自主財源率も3割程度と低迷が続く。一方、復興関連事業費は膨らみ、今年度の当初予算は10年度の5倍となる過去最高の200億円を突破。復興の財源確保は解除後の大きな課題だ。
 

復興庁が昨年10月実施した帰還意向調査(回収率55.6%)では、「すぐに戻る」「条件が整えば戻る」と答えた町民は46%で、うち帰還時期を避難指示解除から「1年以内」と答えた人は37%だった。しかし、今年4月に始まった「準備宿泊」に登録した町民は約780人にとどまった。17年4月に同県いわき市の仮設校から町に戻る町立小中学校に「通学する」とした児童生徒数も、町のアンケート調査で就学対象者の7%しかない。【栗田慎一、小林洋子】
 


福島・楢葉町 原発事故に伴う避難指示解除
2015年9月5日 NHK
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150905/k10010216901000.html



東京電力福島第一原発の事故で、福島県内に出された避難指示のうち、楢葉町のほぼ全域に出されていた避難指示が、5日午前0時に解除されました。原発事故に伴う避難指示の解除は3例目ですが、役場とすべての住民が避難していた自治体での解除は初めてです。

福島第一原発の事故で避難指示が出されている地域のうち、楢葉町はほぼ全域が原発から20キロの距離にあり、早期の帰還を目指す「避難指示解除準備区域」となっていました。

政府は、国による除染が終わるなど自宅に戻って暮らす環境がおおむね整ったとして、5日午前0時に避難指示を解除しました。原発事故に伴う避難指示の解除は、田村市都路地区と川内村の東部の一部地域に続いて3例目ですが、国の指示で役場とすべての住民が町ぐるみで避難した原発周辺の7つの町と村では初めてです。

避難指示の解除で、楢葉町では7300人余りの住民が住み慣れた自宅での暮らしを再開できるようになるほか、これまで許可が必要だった商店や企業などの事業が自由に行えるようになり、復興に向けた動きが活発化することが期待されます。

一方で、放射線への不安をどう解消していくかに加え、買い物や医療などの町の機能を4年半ぶりに再開させて、住民が安心して戻れる環境をどう整えていくかが大きな課題となります。

福島第一原発周辺では、今も9つの市町村、およそ7万人の住民に対して避難指示が出されています。政府はできるだけ早く元の生活を取り戻せるよう、除染を終えるなど生活環境がおおむね整った地域から、避難指示を解除していく方針です。


ろうそくに火をともし町の再生誓う
原発事故による避難指示が解除された福島県楢葉町で、復興への思いを込めて、およそ3000本のろうそくに火が灯され、住民たちが町の再生へ気持ちを新たにしていました。

この催しは、避難指示が解除された楢葉町の復興に向けた思いをろうそくの明かりに込め、住民の思いを1つにしようと町が開きました。役場の担当者や住民、それに県外から訪れたボランティアの大学生たちが4日夕方から町の総合グラウンドに集まりました。用意されたおよそ3000本のろうそくには、「笑顔あふれるならはが続きますように」とか「大好きな町楢葉」などと、避難を続けてきた住民たちの思いが、メッセージとして書かれています。参加した人たちは1本1本地面に並べ、震災後に楢葉町がキャッチコピーとしてきた「こころつなぐならは」ということばをろうそくで作りあげ、日暮れとともに火をともして町の再生へ気持ちを新たにしていました。そして避難指示の解除の時刻となった午前0時には、松本幸英町長が最後の1本に火を灯しました。

松本町長は「すべての町民が避難した町としては、初めての解除なので、けん引役としても一歩一歩着実に復興に向けて取り組んでいきたい」と話していました。

いわき市に避難している63歳の男性は「うれしさと今後への不安が半々ですが明るく頑張っていきたい」と話していました。
被災地復興の「試金石」として注目

今回の楢葉町の避難指示解除は、今後の被災地の復興の「試金石」として注目されています。

東京電力福島第一原子力発電所の事故で福島県内では多いときで11の自治体に避難指示が出され、去年から解除の動きが始まりました。初めて避難指示が解除されたのは去年4月、田村市の都路地区で、去年10月には川内村の一部の地区でも避難指示が解除されましたが、いずれも自治体の一部で、対象は合わせて600人余りでした。

今回の楢葉町は、避難指示の解除としては3例目ですが、対象は町のほぼ全域の7300人余りに上り、役場とすべての住民が避難していた自治体での解除は初めてのケースです。楢葉町では去年6月以降、役場の機能を段階的に元の庁舎に戻し、行政機能はすでに再開しています。一方、4年半近く町ぐるみの避難を続けてきたため解除の時点では町に医療や福祉のサービスを受けられる施設はなく、買い物のできる商店も少ないなど、住民が安心して帰還できる環境が整うにはまだ時間がかかるとみられています。

楢葉町の解除のあとも、福島県では9つの市町村で避難指示が出されていますが、現在、南相馬市と川俣町、それに葛尾村の3つの市町村が来年春の避難指示解除を目指しています。

また、政府はことし6月、放射線量が比較的高い「帰還困難区域」を除き、避難指示を再来年の平成29年3月までに解除する指針を閣議決定しています。

こうしたことから福島県では今後、各地で避難指示の解除が続く見通しで、楢葉町が、買い物や医療、それに教育や産業などといった生活の基盤をどう整備し、住民の帰還と復興を進めていくか関心が集まっています。




除染や生活基盤に不安 福島・楢葉町で避難指示解除

2015年9月5日 日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG03H6I_U5A900C1CR8000/

今年4月から始まった準備宿泊で町に戻った住民からは、生活環境の整備の遅れや除染への不安などを指摘する声が上がっている。

「もう農機具はすべて売り払った」。7月にいわき市から自宅に戻った稲作農家の男性(80)は水への不安から営農の再開を諦めたという。自宅前に広がる田んぼは雑草が生い茂ったままだ。

心配の種は水源となっている木戸川。環境省の調査で、上流にあるダムの湖底の泥からは高濃度の放射性物質が検出された。政府は「表層の水は安全」として泥の除染はしない方針だが、男性は「今は水道水を飲まず、ミネラルウオーターを買っている」と話す。

商店や公共施設などの再開も大きな課題となっている。楢葉町商工会に所属する242事業所のうち、町内で営業を始めたのは58事業所。スーパーは縮小営業中の仮設店舗のみだ。医療機関は10月以降、小中学校は2017年春の再開を見込んでいる。

小中学生の子供2人を持つ女性会社員(40)は解除後も、いわき市の借り上げ住宅から週末のみ自宅に戻る生活を続ける。「子供の学校や買い物のことを考えると、ずっと楢葉で生活するのは無理かもしれない」

治安面に不安を感じる高齢の町民も多い。一時帰宅した町民の家財道具が盗まれる事件が起きているほか、町中にやってくるイノシシの存在も生活を脅かす。町によると、準備宿泊の開始後、イノシシと車の衝突事故などのトラブルが毎月10~15件起きている。


4月に埼玉県の避難先から戻った男性(64)は8月、体長1~2メートルほどのイノシシ6匹に愛犬を殺された。「もし人を襲ったらと思うとぞっとする。高齢者ばかりだと自分たちの身を守ることもできない」と話す。


避難指示解除の楢葉町 病院なく買い物も町外…放射性物質に根強い懸念 住民帰還へ課題多く
 2015年9月5日 産経新聞

http://www.sankei.com/life/news/150905/lif1509050009-n1.html
福島県楢葉町で4年半ぶりに、故郷への定住が許された。喜ぶ町民がいる一方で、医療機関やスーパーなど日常生活に欠かせない施設の整備は遅れている。放射性物質の影響による不安も拭えず、本格帰還に向けては課題が山積している。

避難生活が長期化する中で体調を崩す人が増え、福島県内の震災関連死者数は、今年3月末時点で1914人に上った。政府は、故郷への早期の帰還を望む高齢者などの要望に応える形で、避難指示の解除に踏み切った。

だが、帰郷する人たちにとって、まず心配なのが、医療機関の不足だ。楢葉町を含む双葉郡(8町村)の医療態勢はまだ整っておらず、同町に建設が始まっている県立診療所の開所予定は来年2月。患者は南側にある広野町やいわき市の病院への通院を余儀なくされる。

双葉地方広域市町村圏組合消防本部によると、東日本大震災前に比べて、救急搬送に要する平均時間は1・5倍に延びているといい、同本部の大和田仁次長は「綱渡りの状況だ」と懸念する。

買い物もまだ不自由な状態だ。営業しているのは仮設のスーパーとコンビニ2店舗で、本格的な買い物には町外に出ざるを得ない。放射性物質への懸念も根強く、町内にある木戸ダムを水源とする住民にとっては「安心して飲めない」といった声も聞かれる。

町内の小中学校の再開時期も平成29年4月で、1年半以上先になる。児童・生徒のいる家庭の帰還の足が鈍る理由だ。小中学生538人の保護者に行ったアンケートでは、学校が再開した場合に「通学する」と回答したのは36人。検討中を含めても79人で、学校が再開したとしても子供の声が町に響く日は遠い。

復興庁や県、楢葉町が昨年10月に実施したアンケートでは、町に「すぐに戻る」と答えたのは9・6%で、「条件が整えば戻る」と合わせても45・7%と半数以下だ。

復興への足がかりはある。町内では平成24年10月から、地元の観光名所だった天神岬の温泉施設が営業を再開した。今年10月には地域の観光資源の1つとなっている木戸川のサケ漁も再開される。

ふるさと復興への期待と、将来への不安が交錯する中、本格帰還のためには、町民に寄り添ったきめ細かい支援が求められている。(野田佑介)

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