2015/07/31

希望新聞:東日本大震災記者通信 家族の結束 福島・郡山

2015年7月31日 毎日新聞
http://mainichi.jp/shimen/news/20150731ddm012040010000c.html
稲の生育を確認する渡辺栄太郎さん。後ろはキュウリを栽培するハウス=福島県郡山市で

 福島地裁郡山支部の303号法廷で7月中旬、福島県郡山市の専業農家、渡辺栄太郎さん(57)は陳述書を読み上げた。「安全安心な農地で安全安心な農作物を作れる状況に戻してほしい」。東京電力福島第1原発事故で農地が汚染されたとして、東電に農地の原状回復を求めた民事訴訟の原告団の一人だ。農民の静かな怒りが伝わる朗読だった。

意見陳述の中で「うれしくて、涙が出ました」という場面があった。派遣社員をしていた息子が「農業を継ぐ」といい、2009年春から一緒に農作業に精を出したというくだりだ。後継者ができて農業にかける意欲に火がついた。5ヘクタールだった水田の規模拡大に乗り出し、10年6月にはビニールハウス2棟を作り、息子に夏秋キュウリの栽培を任せた。消費者に自慢の農作物を直接販売しようとホームページを開設したのも、この頃だ。コメを輸出する夢もあった。

その翌年に原発事故が起きた。原発から約70キロ離れたところに田んぼがある渡辺さんのコメも、安値でしか売れない。「おいしいコメを作っても他県の産地と競争すらできない。同じ土俵に立って勝負したいのに」。そんな憤りから、裁判に加わった。「人の庭で犬がウンチをしたら、飼い主が始末するのは当然。放射性物質をばらまいた東電に始末してほしいだけです」。渡辺さんは妻、息子と手を携えて業務を拡大し、今は16ヘクタールでコメをつくり、ハウスも1棟増やした。逆境に負けないぞと、家族の結束は強まったという。【浅田芳明】

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