2015/06/21

福島復興指針改定 実態に即した支援継続が必要だ

 2015年06月20日愛媛新聞 社説
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201506206128.html

政府は東京電力福島第1原発事故で大きな被害を受けた福島の復興指針を改定し、「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の避難指示を、2016年度末までに解除する方針を決めた。両区域住民に東電が支払っている月10万円の精神的損害賠償は、17年度末で終了する。

政府は「賠償」から「生活再建支援」に軸足を移し、自立を促す考えだが、帰還の前提となるインフラ復旧は不十分で、コミュニティーの再生も容易ではない。避難している住民が難しい決断を迫られるのは必至だ。

両区域の5万5千人が置かれた状況は一様ではない。政府や東電は、一方的かつ一律な避難指示解除や賠償打ち切りが避難者の切り捨てにならないよう、実態に即したきめ細かな支援に努めてもらいたい。賠償期間延長など、新指針の見直しをためらってはなるまい。

改定の背景には、避難長期化への政府の懸念がある。目安となる時期を示すことで決断を後押ししたいと説明するが、それならば、そこには避難を強いられた住民の声が反映されていなければならないはずだ。

政府が十分に意向をくみ取った跡はうかがえない。「目に見える復興」のアピールよりも、誰もが進んで帰還したいと思える環境整備に道筋を付けるのが先だ。小さい子どもがいる世帯など、放射線への不安で「戻りたくても戻れない」葛藤は察するに余りある。苦悩に寄り添う重層的な支援こそが求められていると、肝に銘じてほしい。

昨年4月以降、田村市と川内村の一部で避難指示が解除されたが、帰還が進んだとは言い難い。全町避難の楢葉町についても、8月には解除するとの考えが示された。昨日始まった住民懇談会では「子どもを帰せる状況にない」「あまりに唐突」など不安や反発が相次いだ。政府は真摯に向き合い、解除ありきの姿勢を省みる必要があろう。

指針改定と歩調を合わせるように、福島県は避難指示が出ていない地域からの自主避難者について、避難先での住宅の無償提供を16年度末で打ち切ることを決めた。当初予定を1年延長するとはいえ、困窮する人が出るのは想像に難くない。

自主避難者は県の推定で2万5千人に上る。そもそも、原発事故がなければ住民が背負う必要のなかった重荷なのだ。県は帰還の際の引っ越し費用を補助するほか、避難を続ける低所得世帯に家賃を一定期間補助するなどの独自支援策を講じてはいる。が、事実上の帰還強制との批判は根強い。内堀雅雄知事は「避難者の思いを尊重する」と述べた。打ち切り撤回を含め、支援の継続を求める。

新指針は、放射線量が依然高い「帰還困難区域」の解除見通しには言及しなかった。福島第1原発では、汚染水対策をはじめ廃炉作業が思うように進まない。事故は収束していないとの基本認識を、国民一人一人があらためて共有しておきたい。

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