2015/06/22

福島/被曝不安、「行動」で和らげる 親向け心理療法

(被ばくへの不安は、実際に目には見えずとも身のまわりにある放射性物質について、冷静に考える時に起こる正常な防御反応でしょう。それを「心身の不調」として改善すればよい問題ではありません。子ども全国ネット)

2015年6月22日 朝日新聞
http://digital.asahi.com/articles/ASH6571WHH65UGTB01D.html

セミナーでは、臨床心理士の関屋裕希さんの司会で
楽しい行動をリストアップしていった
=福島市保健福祉センターで
東京電力福島第一原発事故に伴う被曝(ひばく)に不安を感じながら子育てをしている親たちの不調を和らげようと、専門家が新たな対処法に取り組んでいる。人々の不安そのものではなく「行動」に着目するのが特徴で、前向きに生活できるようになる効果があるという。

「美容院に行く」「ラインで友だちと話す」「マッサージ」「ショッピング」「部屋の模様替え」「独りでゆっくりお風呂に入る」

福島市で昨年11月下旬に開かれた「ママのための☆Happy☆いきいきアップセミナー」。講師が「楽しいことや、いい気持ちになるのはどんなことですか?」と尋ねると、参加した乳幼児の母親8人が次々と答えた。

主婦の伊藤抄子さん(35)は2013年5月に長女を出産後、被曝への不安が急に強まり、落ち込んだ。昨年末、1回90分のセミナーを1週間おきに2回受けて「楽しいこと」をする大切さを知り、女子会を開いたり、親子で遠出したりした。「不安は無くなっていませんが、少し華のある生活を送れるようになり、気分が晴れてきました」と話す。

セミナーは「行動活性化技法」と呼ばれる心理療法の試みの一つ。家事や仕事の課題を解決するといった達成感のある行動や楽しい行動、いい気分になる行動を意識的にすることで、心身の不調を改善することをめざす。

認知(考え)や気持ち、行動、体調は密接に関係し、影響しあっているので、心身に直接、働きかけるのではなく、考えや行動に働きかけることでも体調を改善できる――。こんな理論が背景にある。

この療法を編み出した川上憲人・東京大学医学系研究科教授(精神保健学)の研究チームによると、昨年度後半に福島市で実施したセミナーでは、参加した乳幼児の母親計37人に一定の効果がみられたという。たとえば、全般的な精神的健康度を表す指標は、セミナーの前後で5・8点から4点に改善した。この指標は24点満点で低いほど健康とされ、9点以上だと不安障害などが起きる可能性が50%以上あるとされる。統計学的に有意な差はみられなかったものの、生活満足度や活動の活発さも向上し、3カ月後もその状態を維持していたという。

セミナーで講師をした臨床心理士の関屋裕希・同研究科特任研究員はこう話す。「被曝への不安の背景には『被曝で体に悪影響が起きる』という認識がある。いったん不安に感じたら認識を変えるのは難しい。そこで認識ではなく、行動を変えることで心身の不調が改善できればいい、と発想した」

県立医科大の安村誠司教授(公衆衛生学)は「県民の被曝への不安の解消が難しい現状で、これまでとまったく異なるアプローチには意味がある。県内での普及に力を入れて欲しい」と話す。(大岩ゆり)

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