2015/03/20

「福島の人たちには逃げる勇気を持ってほしい」 鼻血問題の『美味しんぼ』著者が風評差別に反論!


2015年03月20日
http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/20/45282/

騒動から10ヵ月がたった先月、原作者の雁屋哲氏が沈黙を破り、ついに反論本『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』(遊幻舎)を刊行。鼻血は決して風評ではないとする著者に、じっくりと話を聞いた。(第1回→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/13/44879/)、(第2回→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/19/45279/

PART3では、鼻血騒動に対する福島県民からの意外な反応について、そして福島へのメッセージをお送りする―。

***

―ところで、鼻血騒動の時、雁屋さんの元に届いた意見には批判の声が多かったのでしょうか。

雁屋 あの騒ぎの時、2、3週間で900通近いメールをもらいました。そのうちの95%は僕に対する応援でした。(雁屋氏に)同感という意見や、福島県民からは「私たちが言えないことを言ってくれてありがたい」という声。福島に住んでる人たちが何か言うと、変わり者と言われちゃう。だから、本当のことをはっきり言ってくれて嬉しかったという意見が多くありました。

―そもそも『美味しんぼ』で、なぜ福島のことを描いたのですか。

雁屋 震災後最初に青森、岩手、宮城を訪ねて「被災地編」を書きました。そうすると取材で行く先々で「俺たちは一生懸命やろうと思うんだよ。でも、福島第一原発があれじゃ、いつ何が起こるかわからなくて力が抜けるんだよ」っていう声を聞くんです。最初は僕もなんとか福島に復興してもらいたいと思ってた。それで予定どおり福島編をやろうとなったのです。

―私も「福島の真実編」(110巻、111巻)を読みましたが、雁屋さんが福島のことを一番に思って描いているのがよくわかりました。だからこそ、鼻血のコマの部分だけ炎上してバッシングされたというのがわからない。批判する人は、全部を読んでないとしか思えないですね。

雁屋 僕は福島がすごく好きでね。本当は福島応援団のつもりで行ったんです。だから最初は内部被曝に対する考えも甘かったんです。だが、調べていくと原発事故以後の食べ物は相当に汚染されていることがわかった。例えば、セシウムが25ベクレル含まれた食べ物を一日100g食べたとすると、それだけで事故前より147倍も多く摂取することになる(注・日本分析センターが2008年に調査した日常食に含まれるセシウム137の福島市の結果から推定)。

でも、国が食品の基準値を100ベクレル以下と決めたことで、みんなが食品は100ベクレル以下ならいいと思ってしまった。それに食べ物の放射線量も問題だけど、そこで農作業している人たちの被曝はもっと深刻です。

―どういうことですか?

雁屋  土壌に放射性物質がすごく含まれてるでしょう。農作業をしていて土壌を耕すとそれが舞い上がる。田んぼの周りにいるだけで風が吹けば吸ってしまう。だから 食品の線量が低くなってもやっぱりダメだという結論に達したわけです。福島県庁だって僕が行った時には毎時0.5μSvあった。避難指定にすべきですよ。土地の汚染はいくら除染したって取り切れませんから。

―住民の中には被曝は怖いけど、いろんな事情で避難しない人もいます。どうしたらよいでしょうか。

雁屋 本当はここに住みたくないと声を上げることです。かなりの人が声を上げたら、日本人はみんな絶対に反応して応援します。外からなんとかしろと言ってもダメなんです。ある県民が福島の人は従順でおとなしいと言っていましたが、自分の命がかかっているのだから反抗すべきです。

僕がこういうこと言うと福島差別だって言う人がいるけど、それは逆。福島を差別している人だから「年間20mSvでも住め」なんて平気で言えるんだ。もし福島県の人たちを自分と同じ人間だと思ったら、「福島以外に住む僕たちは年間1mSvなのに、なぜあの人たちは20mSvで平気なんだ」と疑問を持って言うべきでしょう。

―雁屋さんに対し、政治家たちはこぞって根拠のない風評だと言いました。それに対してはどう思いますか。

雁屋 風評とは、噂やデマなど事実に即してないことを言いふらすことです。僕が言ってることは自分が体験した事実。それを風評というのは到底受け入れられない。風評と言う人は僕の言ったことのどこが風評かその根拠を示してほしい。誰のどの論文を根拠として、低線量や内部被曝では何も症状は出ないと言い切れるのか。そうしないと議論にならない。

―今、意見が違うと対話もできない風潮になっています。

雁屋 意見が食い違うだけでなく、福島の真実を語ると社会の裏切り者みたいな空気がある。みんなの和を乱すようなことするなって。とにかく僕はきちんともう一度議論したい。みんながいろんな意見を言う。それをしないで縮こまっちゃって、特に福島では放射能のことを何か言うと「おかしい」って言われる。

でも自分たちの命がかかってることなんです。福島の人たちには声を上げてもらいたいし、福島から逃げる勇気を持ってほしいと思います。

***

原発事故から4年が経過し、福島の復興に水を差す恐れがあるテーマは、議論することさえはばかられる風潮が強まっている。だが被曝問題は住民の健康に関わる重要なテーマ。すべてを風評のひと言で片づけず、きちんと議論や検証をしようという雁屋氏の意見は正論だ。

中には渦中に沈黙していたのに、何を今さらとの声もある。だが当時、首相までもが一マンガを批判する異常な事態下で、冷静な議論ができたのかは疑問だ。

■雁屋 哲(かりや・てつ)
1941年、中国・北京生まれ。東京大学教養学部基礎科学科で量子力学を専攻。電通勤務を経てマンガ原作者になり、1983年より『美味しんぼ』(画・花咲アキラ氏)を連載

(取材・文・撮影/桐島 瞬)


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