2014/10/08

先天異常変化なし 福島への誤解解く情報を


 福島で生まれた赤ちゃんに先天異常が出る割合は、東京電力福島第一原発事故後も、全国平均と変わらないという厚生労働省研究班の結果がこのほどまとまった。

 原発事故以降、福島県内では妊産婦を対象にした三つの調査が行われている。一つは今回の厚労省研究班報告の基となった日本産婦人科医会の調査、二つ目は福島県が実施する県民健康調査、三つ目は福島県立医科大による調査だ。

 県の調査は、母子手帳をもらった女性を対象に、妊娠の結果や母乳の有無、抑うつ傾向などを郵送で尋ねている。事故時に妊娠していて県外で出産した人のデータも含まれており、こちらも先天異常の割合は全国平均と変わらなかった。大学の調査は流産や中絶の割合を調べており、これも事故前と後では変化がない。

 いずれの調査にもかかわる福島県立医科大の藤森敬也教授(産婦人科)は、事故後、赤ちゃんへの影響を心配する妊婦を何人も診てきた。原発事故の翌年に福島県で生まれた赤ちゃんは1万3770人と前年より1割近く減った。昨年はやや増えたが、いまだ事故前の水準には戻っていない。藤森さんは「福島で調査した数字を見て、福島で産み育てる人が増えて欲しい」と話す。

 妊娠中に強い放射線を大量に浴びると、二分脊椎(にぶんせきつい)など先天異常が出るとされる。だが国際放射線防護委員会の勧告では、100ミリシーベルト未満の胎児被曝(ひばく)なら中絶の必要はないという。事故後4カ月の被曝量は福島県民の99.8%が計5ミリシーベルト未満だった。

 現時点でも数字上は、福島で赤ちゃんを産み育てるのは安全なように思える。しかし人間、頭では理解しても、心が追いつかないことがある。それを如実に物語るのが、うつ傾向を訴える人の多さだ。一般的に出産後の女性は10%程度、うつ傾向があるが、2011年度の調査では福島県全体では27%、原発のあった相双地区では30%を超えた。12年度も25%を超えた。

 妊娠・出産時期の女性は、赤ちゃんを守ろうとささいなことにも神経をとがらせる。あからさまな中傷は減ったが、それでもネット上では今も「福島の赤ちゃんはダウン症や奇形児が多い」などの書き込みがある。

 県は調査票とともに、赤ちゃんへの放射線の影響などについて記した冊子を送っている。不安が強い人には、助産師らが直接、電話で相談にのっている。ただ福島の妊産婦に限らず、全国の人にこうした情報が届かなければ、誤解はなかなか解けないのではないか。私自身、これからも最新の知見を発信していきたいと思う。

(おかざき・あきこ 科学医療部)

(朝日新聞 2014年10月2日掲載)
2014年10月 6日
http://apital.asahi.com/article/story/2014100300015.html


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ひとまず、こうした情報がきちんと開示されることは必要だと思います。今のところは影響がないということをふまえた上で、なお、放射線被ばくの影響にしきい値はないのだから、余計な被ばくを防ぐことができるような行政としての支援、施策を十分行うことが必要でしょう。そうすることではじめて、妊産婦の不安を和らげることが可能になると考えます。

妊娠期の不安定な精神状況が、胎児の生育にとっても、その後の出産育児にとっても望ましくないことは自明の理ですが、だからといって、「正しい情報」「安心」を強制しても、果たしてほんとうに安心できるものでしょうか。


お腹の子を守る母親としての本能が、できる限りの危険を回避したいと願うのは当然のことではないでしょうか。安全な生活環境を得ることは生存権に基づいた権利。原発事故子ども・被災者支援法でも、胎児(妊婦)への配慮の必要性が謳われています。

リスクコミュニケーション事業を展開し、安心を訴えるだけでなく、予防原則にもとづいて、外部被ばくを防ぐための一時的な転居、保養等を選択できる支援や、内部被ばくを防ぐための食べもの等の支援を希望すれば受けられるような形になってはじめて、安心して妊娠期を送ることができると考えます。

行政も医療者も、事故当初の対応で、自ら住民の不信感を高めてしまったわけです。信頼できない以上、いくら「安心」を説かれても、情報は頭の中を素通りします。「安全」を謳うだけでは、信頼を回復することは極めてむずかしい。政府共々、リスクコミュニケーションのための予算拡大だけに走ることなく、具体的な支援策のための予算を確保し、実行すべきだと考えます。

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