2014/07/01

離ればなれの原発避難者たち

原発事故による避難家族の半数が、離ればなれの生活を余儀なくされている現状を訴える記事。こうした現実を、もっと多くの人に知ってほしい。文中の、子ども・被災者支援法は「原発事故被災者が避難や帰還、移住など、いずれを選択してもそれを尊重し適切に支援するという理念がある」という言葉に、あらためて子ども・被災者支援法の柱を思います。帰還のみを推し進めるのでなく、この理念にもう一度立ち戻って、施策を実行することが、避難当事者の切なる願いだと感じます。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140625ddm005070020000c.html


記者の目:離ればなれの原発避難者たち=小林洋子(福島支局)

毎日新聞 2014年06月25日 東京朝刊

 ◇家族の速やかな修復を

 東京電力福島第1原発事故で避難した家族の半数が、離ればなれの生活を余儀なくされている。福島県民は家族のつながりを保つことさえ難しい状態に置かれている。原発事故避難者への支援の理念を定めた「子ども・被災者生活支援法」が目的とする「被災者の不安の解消と安定した生活の実現」にはほど遠い。国や自治体は事故収束と復興への明確なビジョンと実行力を示し、家族の分断を速やかに修復しなければならない。

 ◇分散世帯は5割、ストレス大きく

 福島県は、東日本大震災と原発事故で県内外に避難している6万2812世帯(約14万人)を対象にアンケートを実施し、2万680世帯(33%)から回答を得た。事故後に家族が分散した世帯は48・9%にも上った。衝撃的な数字だ。避難者は生活が一変して、大きなストレスを抱えている。それに加えての家族離散である。原発事故が家庭に及ぼしたダメージはあまりにも大きい。
 家族の分断には複数の要因が絡まっていて、それぞれが置かれた状況は千差万別だ。
 4世代11人の大家族だった川俣町山木屋地区の菅野栄太郎さん(84)一家は5カ所に分かれて暮らす。菅野さん夫妻は避難区域にある自宅から町内の仮設住宅に移った。息子や孫たちは仕事や子育ての事情で福島市内の4カ所に分散した。「昔のような生活を取り戻したい」と菅野さんは願うが、見通しは立たない。
 広野町では、子育て世代が高齢の親と別々に暮らすようになったため、原発事故前は介護が必要でなかった高齢者の多くが、事故後にデイサービスを利用するようになったという。要介護状態が軽い「要支援1」の認定者数は事故前の2倍近くに急増、介護職員の増強など福祉環境の整備が求められている。
 私が今年3月まで5年間勤務した秋田県には約770人が避難している。子どもへの放射線の不安から父親を福島に残し、母子だけで避難した世帯も多い。福島に残る夫や親類から戻るように言われ、悩む30代の母親がいた。彼女は「家族一緒に住んだ方が子どもにとってもいい」と思いながら、子どもの健康への不安がぬぐい切れていなかった。即断できない母親の気持ちは理解できる。
 母子避難者たちは、古里の放射線量の変化など詳細な情報を求めている。約5000人の避難者を受け入れている山形県の復興・避難者支援室の担当者は「母子避難者には自宅や学校の除染だけではなく、子どもの遊び場や通学路の放射線量を気にしている人もいる」と話す。
 福島県飯舘村の菅野典雄村長は放射線への不安について「(判断基準が)家庭の中でも年寄りと小さい子を持った若い人、夫と妻で違う。放射能の災害は『心の分断』の連続」と指摘する。判断の違いが、家族の分断の解消を難しくしている側面もあるのだ。

 ◇帰還も移住も、個別対応が必要

 母子避難者は父親不在、二重生活による経済的困窮といった問題も抱える。避難者の子どもや保護者の相談・支援に当たる福島大うつくしまふくしま未来支援センターの本多環・特任教授は「ストレスを受けた母親が避難先になじめず、閉鎖的な環境での子育てを強いられ、子どももストレスを感じるという連鎖反応がみられることも多い」と家族分断の弊害を指摘し、「子どものためにも親への支援が大事だ」と訴える。
 家族分断の背景には政府や東電への不信もある。汚染水漏れなど原発のトラブルが続き、避難者は事故収束への道筋を見定めることができない。除染は遅れ、放射線への不安も払拭(ふっしょく)されていない。家族の形を修復するため、国と東電は事故収束と復興に向け信頼を取り戻さねばならない。
 2012年に成立した「子ども・被災者生活支援法」は、昨年10月に決定した基本方針で支援対象地域を福島県東部に限定したため批判されている。施策は新鮮味に乏しく、形骸化も指摘されている。しかし同法には、原発事故被災者が避難や帰還、移住など、いずれを選択してもそれを尊重し適切に支援するという理念がある。各家庭の事情や一人一人の判断を踏まえ、国が個別に対応しなければならないということだ。政府はこの理念に立ち返り、福島県民に家族のつながりを取り戻す確実な対策を早急に講じてもらいたい。
 社会の最小単位である家族が離ればなれの状況に、私たちが目をつぶることは許されない。原発事故から、もう3年以上がたっているのだ。福島県民をさいなむ家族の分断を修復しなければ、福島、日本の復興は見えてこない。

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